2000-08-08 [長年日記]

花火

夜、ふと気付くと遠くから微かに花火の音が聞こえていた。そういえば今年はまだ花火を見ていない。

最後に花火を見たのはおととしの夏のことだった。あの時僕は、何もすることがなく、いや何もする気がなく学生最後の夏をただ浪費する事に心を傾けていた。今考えると何もせずにすむことじたいが幸せだったのだのかもしれない。

それはそうと、友達にそそのかされた僕は、友達とそして昔の彼女を花火に誘った。彼女はいつも通り僕の予想を裏切ってその誘いにのった。…いや、わかっていたのだ。断りきれない彼女を。そして僕はそれを分かっているからこそ誘ったのだった。

花火は、その身を焦がしながら打ち上がるたびに僕たちを一瞬だけ明るく照らし出していた。僕は強烈なまでに夏を感じさせる硝煙の匂いを感じながらぼうっとした頭で何を考えるでもなく花火を眺めていた。花火はきれいだった。悲しいまでにきれいだった。花火は終わった後が空しいのではない。打ち上げた瞬間にそれはもう空しいのだ。彼女とはほとんど何も話さずに別れ、そして僕の夏は終わった。

去年の夏は花火を見にいった記憶がない。見にいけるほど吹っ切れていなかったのかもしれないし、ただ単に行く暇がなかったのかもしれない。今年もこのまま見にいけないのかもしれない。それはそれで構わない。ただ、次に花火を見るときに花火が悲しいものだとは感じたくない。僕の今思うことはそれだけだ。